大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和40年(わ)5249号 判決

主文

本件公訴(昭和四〇年一一月九日付公訴事実中第二の部分)を棄却する。

理由

被告会社並びに被告人は、昭和四〇年一一月九日付起訴状中第二の公訴事実をもって「被告会社は名古屋市東区白壁町二四番地に本店を置き、ゴルフクラブの製造販売業を営むものであり被告人はその監査役にして事実上の責任者であるところ、被告人は被告会社の業務に関し、昭和四〇年一〇月三日頃、法定の除外事由がないのに、被告会社において、中務工業株式会社よりゴルフクラブ用物品税証紙一八三枚を譲受けた」ものであり右は「物品税法第四〇条、第四五条七号」に該当するとして、公訴を提起されたものであること記録上明らかである。

しかして、かかる間接国税に関する犯則事件については、国税局長その他権限ある者の適法な告発の存在が公訴提起の要件であり、そして、その告発は犯則者につき国税犯則取締法第一三条第一項各号及び同法第一四条第二項に定める事由が存しない限りまず通告処分をなし、その履行なきとき始めてなし得るのが原則であって、右の事由がないのに通告処分手続きを経ることなく、直ちになされた告発が有効とされるのは、法人のために行為した者につき右の事由ある場合に、該法人に対してなされた直接告発が、事実認定の統一と量刑の適正の見地から適法とされる(昭和三四年五月八日、最高裁判所第二小法廷判決)場合の如く、通告処分手続きの実施を排除する格別の理由の存する場合に限るべく、然らざるときはその直接告発は違法であり、効力なきものといわねばならない。

そこで本件についてこれをみるに、各証拠によると、本件においては大阪国税局長の告発は存するが、右告発は通告処分手続きを経ないで直接なされたものであり、そしてそれが直接なされた理由は、本件犯則事実自体につき、国税犯則取締法第一三条ないし第一四条に定める直接告発の要件が具備されていることによるものではなくして、被告人には他に「情状懲役の刑に処すべきもの」として国税犯則取締法第一四条第二項後段により直接告発すべき犯則事件があり、被告会社も、右事件につき右は被告会社のためなしたものであるから同時に直接告発さるべきところ、本件はそれらの犯則事件と併合罪の関係にあるから、併せて直接告発したものであることが認められる。

よって、このように、その犯則事件自体には直接告発の要件が備わっていないが、他に直接告発を適法とする間接国税に関する犯則事件があり、右はこれと併合罪の関係にある場合、そのことが、前者に対する直接告発を適法とする事由となるであろうかについて検討するに、併合罪の関係にある犯罪はできるだけ同時に裁判するのがのぞましく、法もまたそれを期待しているところではあるが、しかし右は各罪に対する適法な公訴を前提とするものであって、刑法の併合罪の規定自体には、直接告発の要件を具備しない犯則事件につき、それが他の直接告発の要件を具備した犯則事件と併合罪の関係にあることをもって、これが直接告発を適法ならしめる如き趣旨を何ら含むものではない。されば単に併合罪の関係にあるということだけでは本件直接告発を適法とする理由にはならない。また、告発は人そのものを単位としてなされるものではなく、犯罪事実を基としてなさるべきものであり、従ってその適否も犯罪事実毎に決せられねばならないものであるから、同一人若しくは同一会社に対する一の適法な告発の存在は、他の不適法な告発をして適法ならしめる力を有するものではない。さらに、同じく間接国税に関する犯則といっても一様ではなく、多くの種類、態容があり就中その法定刑において懲役刑の定めあるものと罰金科料だけのものとの別が存するところ、国税犯則取締法第一四条の通告処分は、間接国税に関する犯則に対しては、まず犯則者に罰金又は科料に相当する金額その他の財産上の負担を通告し、犯則者がこれを任意に履行したときは当該犯則については敢えて刑事訴追をもって臨まないとする制度であるから、罰金科料の定めだけの犯則については、その犯則自体に、これに対する罰金等に相当する金額の支払能力がない等直接告発の許されるべき事由の存しない限り、必らずまず通告処分をなし、しかるのちでなければ告発できないと解すべく、そしてこの理は他に懲役刑を相当とする犯則事件があり、それについて同時に直接告発をなすべき場合であっても何ら異ならない。けだし体刑と財産刑とではその性質を異にしており、そして体刑は通告処分には馴染まないものであり、その故に国税犯則取締法も「情状懲役の刑に処するを相当とする」場合には通告処分手続きを経ないで直接告発することを認めているのに反し、財産刑は、これこそ通告処分が特にその対象と考えているところであって、この場合にはまず通告処分をなすよう要請しているのであり、されば他に懲役刑相当として直接告発の許されるべき犯則事件の存することは、他の財産刑だけの犯則事件につき通告処分を経ないで告発することを首肯せしめる特段の理由とはならないからである。しかして本件犯則については、その法定刑は罰金と科料だけである(そして被告人にも被告会社にも通告処分履行の意思も能力も認められる)から、右についてはまず通告処分をなさねばならないものであるところ、これをなさずに直ちに告発されたものであること前示のとおりであるから、本件告発は違法にしてその効なきものといわざるを得ない。

してみると本件公訴は適法な告発に基ずかないものであり、右は公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるときに当るので、刑事訴訟法第三三八条第四号によりこれを棄却する。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 村上幸太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例